こんにちは、Mです。
いやはや大変な騒ぎになっちゃいましたね、トヨタのリコール問題。
まずアメリカのカリフォルニアで昨年夏、レクサスのアクセルが戻らなくなって減速出来なくなり、乗っていたハイウェイパトロールの警官が家族と共に事故死。そのときの携帯電話によるエマージェンシー・コールがニュースで流れちゃったこともあって、日本でも大きな話題になりました。
実は、これと同様な事故がすでに何件か起きていたのですが、このとき、最初の発表では「フロアマットがアクセルに引っかかったせい」であり、しかも「マットを二重に敷くなど不適切な使用」が原因とされました。
ところがその後、「アクセルの作り自体に不具合があった」として、今年になってから大規模なリコールへと発展。
その修理・改善が済むまで全米のトヨタディーラーでは新車を販売出来ない事態に。
あれ? フロアマット云々は関係なかったのかな? でもまあ、問題のアクセルは日本仕様には使われていないということで、ここまではなんとなく「対岸の火事」みたいな思いで、日本のユーザーはピンと来なかったのでした。
でも今度ばかりは、そうはいきません。なにしろ対象車は昨年5月の発売以来、日本国内で最も売れたクルマ、プリウスです。しかも、ことは「ブレーキがすっぽ抜ける」という深刻な問題。
なのにですね、Mは驚いたのですが、トヨタはなかなかリコールに踏み切ろうとはしませんでした。「これは欠陥などではなく、ブレーキの効きと運転者の感覚にズレがあるだけ」というのがその理由です。ではなぜ、「感覚にズレ」が生じるのでしょう?
どうやら鍵は「回生ブレーキ」という、プリウスなどのHV(ハイブリッド)特有のブレーキシステムにあるらしい。
そこで不肖Mは、少しばかり回生ブレーキについて勉強してみることにしました。すると色々なことが分かってきたのです。
まず始めに、そもそも回生ブレーキとは、HVとともに誕生した目新しい技術ではありません。鉄ちゃん、すなわち鉄道ファンなら良くご存知かも知れませんね。電車では普通に使われているシステムですから。
モーターは電流を流すことで回転し、パワーを出します。ところが逆にモーターを手動で回してやると、電気を発生させることが出来ます。皆さんの中にも、模型用のモーターの軸を回して遊んだことがある人がいらっしゃるんじゃないでしょうか?
電車の場合ですと、減速中、すなわち電流を流さず、モーター自体が回転抵抗となってブレーキが利いてる間、そこから生まれた電気エネルギーは架線へと「回生」されます。HVでは、それをバッテリーへと回生させているわけです。
ま、モーターのエンブレみたいなもんですね。エンジンブレーキは特にエネルギーを生み出しませんが、モーターなら燃費向上へ貢献をしてくれるというわけです。
さてここで第1の問題が浮上してきます。HVでは少しでも燃費を良くするために、この回生ブレーキを利用しているわけですが、もちろん、このブレーキだけではクルマは止まれません。エンブレだけで止めようなんて人は世の中、そう多くはいないでしょ? それに回生ブレーキはエンブレと同様、駆動輪にしかかかりません。プリウスの場合だとFFですから、前輪のみですね。
ですから当然、通常のクルマと同じように油圧制御のブレーキも付いています。ブレーキペダルを踏めば、ブレーキオイル(正しくはブレーキフルード。いわゆるオイルではありません。だから油圧制御、というのもちょっと違うんですけど)が圧力を伝え、四つの車輪全てに適正な力でブレーキをかけてくれるわけですね。つまりHVは回生ブレーキと通常の油圧ブレーキというふたつのブレーキシステムを持っている、ということなんです。ここまではいいですか? ちなみに純然たるEV(電気自動車)である三菱のi-MiEVも、両方備えています。
これが他社の場合、例えばホンダのインサイトですと、ブレーキペダルを踏めば、常にこの両方が利くような作りになっています。ところがトヨタ方式だと、状況に応じて回生ブレーキを多用するシステムになっているんですね。なぜか? そりゃ少しでも燃費を向上させたいからですよ。
さっきMは「エンブレだけでクルマを止めようとする人は、そう多くはいない」と言いました。ですが、ごく低速の場合はどうでしょう? エンブレだけで結構なんとかなるじゃん、と思うかも知れませんね。
トヨタのシステムでは、この回生ブレーキと油圧ブレーキの配分をコンピュータ制御で常にめまぐるしく切り替え、バランスを取っているんですが、ごく低速では、ほとんど回生ブレーキだけに頼っています。この考え方とシステムが、まず問題となったわけです。
第2の問題、それはABSとの兼ね合いにありました。ABSというのは皆さん、もう良くご存知でしょう。雨や雪など滑りやすい路面で急ブレーキをかけてもタイヤがロックしない、つまりは安全に止まれる、あるいは障害物をよけることが出来る装置です。これって早い話が、ロックしかけたときにブレーキをコンピュータ制御(またしても!)によって、瞬間的に数回緩めてやるシステムのこと。これが普及する前は、ドライバーは「ポンピング・ブレーキ」といって、自分の足で踏んだり緩めたりを加減していたものです。
さてプリウスの場合を想像してみてください。例えば雨の朝。滑りやすい路面状況の中でドライバーは慎重に超低速で走行しています。このとき、お得意の回生ブレーキが働き、バッテリーには充電が行われています。おっとマンホールの蓋を踏みそうだ。ドライバーはブレーキペダルに足を置き、踏み込みます。するとその瞬間、コンピュータはABSの必要ありと判断し、回生ブレーキから油圧ブレーキに切り替えようとします。まさにこのとき、コンマ何秒かであれ、ブレーキの空白が生じてしまうんですね。こりゃ、怖いです。ドライバーにしてみれば、まるで「ブレーキがすっぽ抜けた」かのように感じるのも無理からぬこと。そこで今回のリコールでは、この低速でのABS作動時のコンピュータ・プログラミングを変更するということになったようです。これで「すっぽ抜ける」ことはなくなるそうなんですが・・・。
今回の件では、Mもいろんなことを考えさせられました。例えば、なんでもかんでもコンピュータ制御に頼ることの脆弱さ。クルマの運転とは、やっぱり人間が主体であるべきです。
それから、大メーカーの取るべき対応の難しさ。実際の利き具合とドライバーの感覚にズレがあるんなら、そりゃ立派な「欠陥ブレーキ」でしょう? なんだか、「あんたたちの運転が下手だから」と言われてる気がして、テレビニュースを見ながら、Mはのけぞってしまいましたよ。
それから、一般ユーザーよりはるかにプリウスに精通しているはずの自動車評論家の先生たちが、なぜ、これまでひと言もこの問題を口にしなかったのか? 運転がお上手なので、一度も体験しなかったのかなあ。Mが今回調べた限りでは、ずいぶん前から雑誌の読者欄やネットではブレーキの不具合が話題になってたみたいですけど。それもプリウスだけではなく、他のHVでも。さらに「滑りやすい路面を低速走行中」に限らず。
技術の進歩は結構なことですし、そのおかげで人間が楽になるのも悪いことではないでしょう。でも今日のように、誰もが扱える機械になったクルマにこそ、「安全」を欠かすわけにはいきません。クルマは便利だけど、凶器に成り得ることは今も昔も変わらないのですからね。クルマを作る側も、運転する側も、そのことを肝に銘じて忘れないようにしたいものです。では、また。